社交篇
第十の魔法

趣味

趣味ほど、人の心を結びつけるものはありません。学生のクラブ活動から、大人のサークル活動まで、趣味で結ばれた人間関係はこの上なく強固です。どんなに仲の悪い者同士でも共通の趣味があって、その趣味について語り合うとき、心の交流が生まれます。そして、その交流が続けば、人間関係は好転し、2人の仲は良くなります。

趣味には、ゴルフ、テニス、スキー、釣り、読書、音楽鑑賞に映画鑑賞など、さまざまなものがあります。最近は、男性にはカメラ、サックス演奏、ソシアルダンス、女性にはガーデニング、フラダンス、フラメンコなどの人気が高いようです。

誰かと仲良くなりたかったら、まずはその人の趣味を知ることが王道でしょう。人間は一生を通じて、いろんな趣味にめぐり会い、興味を持ち、ときには熱心に打ち込みます。

10代や20代といった若い頃は、好き嫌いせずに幅広いジャンルの趣味に触れることが大事です。将来、生涯をともにする趣味を選ぶときにも、若いときのちょっとした経験があれば入りやすいからです。

30代や40代の趣味探しは、実益も兼ねて何かの資格取得や習い事をやってみるといいかもしれません。

50代からは健康を意識して軽い運動や食生活などを考えた蕎麦打ち、うどん打ち、さらには家庭菜園での無農薬野菜の栽培などが静かなブームになっているようです。

そして60代、サラリーマンならば定年退職後の生活が待っています。そこで趣味はとても大きな存在となってきます。貯蓄や家財が「豊かさのハードウェア」であるとしたら、趣味とは「豊かさのソフトウェア」だからです。特に、一般に自由時間が多いとされる高齢者にとって、趣味はきわめて重要な意味を持つのです。

高齢者にとっての趣味を考えたとき、そもそも文化には、高齢者にふさわしい文化があることに気づきます。将棋よりも囲碁、生花(いけばな)よりも盆栽、短歌よりも俳句、歌舞伎よりも能、とあげていけば、そのニュアンスが伝わるのではないでしょうか。

将棋に天才少年は出ても、囲碁の天才少年というのはあまり聞いたことがありません。短歌には恋を詠んだ色っぽいものが多いが、俳句は枯れていないと秀句はつくれません。

もちろん、どんな文化でも老若男女が楽しめる包容力というものを持っていますが、特に高齢者と相性のよい文化、いわゆる「老成」や「老熟」が必要とされる文化がたしかに存在します。

さて、趣味によって、かけがえのない仲間を得ることもできます。これまで人々のコミュ二ティの中核をなしてきたのは親族、地域社会、学校、職場などでした。それらを「縁」という視点で見ると、「血縁」「地縁」「学縁」「職縁」となります。しかし今後は文化・スポーツなど趣味をともにする同好の人々からなる「好縁」、さらには道としての文化で人間的完成を求め、ボランティアやNPO活動で社会への貢献をめざす人々の「道縁」が中心になると思われます。

わが社では、多くの方々が趣味によって縁を結んでいただくためのNPO活動を全面的に応援しています。その中でも、とりわけ注目されているジャンルが「気功」です。

気功教室は、いつも定員をはるかに超える人数の申し込みがあります。なぜ、それほど人気が高いのでしょうか。もちろん健康に良いということもありますが、気功とは「気」をコントロールする技術ということも忘れてはならないと思います。

人間関係を良くする上で、最も大切なのは「気」です。気がすぐれない者同士が良い関係をつくれるはずがありません。人間関係とは「気」の交換なのです。およそ日本語を用いた日常会話の中で、「気」という語が出てこない会話は皆無でしょう。

たとえば、前に「気」がつく言葉だけでも、気配、気分、気配り、気遣い、気前、気まぐれ、気まずい、気まま、気晴らし、気張る、気転、気長、気立、気疲れ、気負い、気鋭、気品、気持ち、気弱、気楽、気がかり、気に入る、気になる、気にする、気がする、気が重い、気が軽くなる、といった言葉がたちどころに出てきます。

後に「気」がつく言葉だけでも、天気、元気、人気、殺気、短気、陽気、陰気、意気、血気、熱気、冷気、乗気、心気、神気、霊気、邪気、正気、狂気、病気、雰囲気などなど、数えあげればきりがありません。

そもそも、わたしたちは日常生活において、挨拶の後には「いいお天気ですね」とか「お元気ですか?」などと、すぐさま「元気」や「天気」の話に移るのが常です。

これほど多くの「気」をめぐる単語があるということは、意識するしないにかかわらず、日本人がつねに「気」の流れや状態を気にしてきたということです。何よりも、わたしたちはまず、天気や元気といった

「気」の変化を察することから1日をはじめ、人間関係をつくるのです。

荘子は「気が集まればそれが生命である。気が拡散すれば死である」と述べました。人間の身体とは気の流れそのものに他なりません。ちょうどバッテリーのようなものです。バッテリーは放電ばかりしていると、電気がなくなってしまう。長くもたせたいならば、ときどき充電しなければなりません。人間も同様で、気の充電をしなければ気力もなくなり、やる気も起こらなくなって、ついには病気になって死んでしまうのです。気を充電する身体技術を「気功」というのです。

わが社では、朝礼に気功を取り入れています。冠婚葬祭やホテルなどの接客サービス業に携わる者にとって、最も重要なものがプラスの気です。なぜなら、自分自身が充電した気をお客様に対して放電しなければならないからです。サービス業に携わる者は、自らが気を充実させ、元気、陽気、楽しい雰囲気、厳かな雰囲気といったプラスの気をお客様に与えなければなりません。

このように、気功はサービス業にとっての最強のスキルであるのみならず、一般の人間関係においても絶大な力を発揮する魔法です。何より、自らにプラスの気が満ちているならば、そしてその気を相手に与えることができるならば、挨拶やお辞儀は冴えわたり、笑顔や愛語も自然に出てきます。これで人間関係がうまくいかないはずがありません。

気功のみならず、さまざまな文化という趣味を身につけ、人生を楽しむことは、心を太らせることでもあります。

江戸しぐさには、「お心肥(しんこやし)」という言葉があります。まさに江戸っ子の神髄を示している非常に含蓄のある江戸言葉の1つです。その意味は、頭の中を豊かにして、教養をつけるといった意味です。ただし、江戸っ子のいう教養とは「読み書き算盤(そろばん)」だけのことではありません。

本を読むだけではだめで、実際に体験し、自分で考えて、初めてその人の教養になるのです。そのためには、趣味というものを非常に重要視しました。人間はおいしいものを食べて身体を肥やすことばかりになりがちですが、それではいけません。

立派な商人として大成するためには人格を磨き、教養を身につけること、すなわち心を肥やすことが大切でした。だから、江戸の旦那たちは、囲碁や俳句や盆栽を愛し、三味線や小唄や詩吟の稽古に励んだのです。

豊かな趣味を身につけて、周囲の人々との人間関係を良くすること、それこそが心を太らせることでした。ぜひ、自分に合った趣味を見つけて、同好の仲間、同じ道を求める仲間を1人でも多く増やしたいものです。

趣味には人の心を結びつける大いなる力があります。趣味が人間関係を良くすることを、ぜひ心にとめておいてください。